AWSでのSAP運用がもたらす3つのビジネスメリット

SAP システムをAWS上で運用することで得られる主要なビジネスメリットについて、具体的な数値とともに解説します。

クラウドならではのコスト最適化で総保有コストを削減

AWS上でSAPを運用することによる最大のメリットの一つが、総保有コスト(TCO)の大幅な削減です。

コスト項目削減効果主な要因
インフラ費用30-40%– オンデマンド料金体系
– Reserved Instance活用
– 自動スケーリング
運用管理コスト25-35%– 運用自動化
– モニタリング効率化
– セルフサービス化
メンテナンス費用20-30%– パッチ管理の効率化
– バックアップ自動化
– 障害対応の迅速化

柔軟なリソース調整による運用効率の向上

AWS環境ならではの柔軟なリソース調整により、以下のような運用効率の向上が実現できます:

  1. 需要に応じた迅速なスケーリング
    • ピーク時の処理に合わせたリソース増強が数分で可能
    • 非稼働時間帯のリソース縮小による無駄の削減
    • 季節変動への柔軟な対応
  2. 開発・テスト環境の最適化
    • 必要な期間のみの環境プロビジョニング
    • 本番環境の完全なレプリカを短時間で作成
    • 並行開発のための環境分離が容易
  1. バックアップと災害対策の効率化
  • 自動バックアップによる運用負荷軽減
  • リージョン間レプリケーションによるDR対策
  • 99.99%の可用性実現

グローバル展開を加速するAWSインフラの活用

AWSのグローバルインフラストラクチャを活用することで、以下のようなグローバル展開のメリットが得られます:

リージョン展開の容易さ

  • 世界27のリージョンでSAPワークロードを展開可能
  • 標準化された環境による一貫した運用
  • コンプライアンス要件への柔軟な対応

パフォーマンスの最適化

  • リージョン間の低レイテンシー接続
  • エッジロケーションによる高速アクセス
  • グローバルアクセラレータによる通信最適化

コンプライアンスとデータ主権への対応

  • 各国のデータ保護規制への対応
  • 地域ごとの認証取得状況
  • データレジデンシー要件への適合

このように、AWS上でのSAP運用は、コスト削減だけでなく、運用効率の向上やグローバル展開の加速など、多面的なビジネスメリットをもたらします。次のセクションでは、これらのメリットを最大限に活用するための具体的な構築ステップについて解説します。

SAP on AWSの構築ステップ

SAP システムのAWS環境への移行を成功させるためには、綿密な計画と段階的なアプローチが不可欠です。ここでは、実績のある構築ステップを詳しく解説します。

移行準備:システム要件の確認とアセスメント

事前評価チェックリスト

評価項目確認内容重要度
システム規模– データベースサイズ
– トランザクション量
– ユーザー数
★★★
パフォーマンス要件– レスポンスタイム
– 処理時間
– スループット
★★★
可用性要件– RPO/RTO
– バックアップ頻度
– メンテナンス時間
★★★
セキュリティ要件– コンプライアンス要件
– データ保護要件
– アクセス制御
★★★

移行方式の選定

  1. ホメオパシー移行
  • 既存環境を可能な限り再現
  • リスク最小化が優先事項
  • 移行後の最適化を段階的に実施
  1. リプラットフォーム
  • AWS最適化アーキテクチャへの移行
  • パフォーマンス向上とコスト最適化
  • より複雑な移行プロセス

AWS環境のベースライン構築とネットワーク設計

AWSアカウント構成

Root Account
├── 本番環境アカウント
│   ├── SAP Production VPC
│   └── DR VPC
├── 開発環境アカウント
│   └── SAP Development VPC
└── 共通基盤アカウント
    ├── Security Services
    └── Monitoring Services

ネットワーク設計のポイント

  1. VPC設計
  • CIDR範囲の適切な設定
  • アベイラビリティゾーンの冗長化
  • サブネットの用途別分離
  1. 接続性確保
  • Direct Connect/VPNによるオンプレミス接続
  • Transit Gateway によるVPC間接続
  • インターネットアクセスの制御
  1. セキュリティ設計
  • セキュリティグループの適切な設定
  • NACLによるネットワークレベルの制御
  • WAF/Shield による保護

データ移行と整合性検証の実施

データ移行方法の選択

移行方式特徴適用ケース
AWS DMS– データベース移行に特化
– 継続的レプリケーション可能
異種DBの移行
SAP Software Provisioning Manager– SAP標準ツール
– システム全体の移行
同一DB製品の移行
バックアップ/リストア– シンプルな方式
– 大規模データに適する
小規模システム

整合性検証のプロセス

  1. データ検証
  • レコード数の確認
  • キー項目の整合性チェック
  • サムチェックによる検証
  1. 機能検証
  • 基幹業務プロセスの動作確認
  • インターフェース連携テスト
  • パフォーマンステスト

本番環境への切り替えとポストマイグレーション対応

カットオーバー計画

Day-2: 事前準備完了確認
Day-1: 最終データ同期開始
Day 0: 
  - 06:00 システム停止
  - 08:00 最終データ移行
  - 12:00 検証完了
  - 14:00 ユーザーテスト
  - 16:00 本番稼働開始

ポストマイグレーション対応

  1. 初期安定化対応
  • パフォーマンスモニタリング
  • 問題点の早期発見と対応
  • ユーザーサポート体制の強化
  1. 最適化施策の実施
  • リソース使用状況の分析
  • コスト最適化の実施
  • 運用プロセスの改善

各ステップにおいて、プロジェクト管理とリスク管理を適切に行い、必要に応じてAWSやSAPのサポートを活用することが重要です。次のセクションでは、AWS上でのSAPシステム運用のベストプラクティスについて解説します。